成年後見制度の活用(1) 成年後見制度とは
これまで、痴呆性高齢者など、いわゆる判断能力が不十分な人の権利や利益を守る制度として、禁治産制度や準禁治産制度というものがあったが、これらの制度は、禁治産者や準禁治産になると戸籍に記載される、禁治産者や準禁治産者の認定が難しかった、準禁治産者より軽度な障害を持った人は対象とならなかったことから、ほとんど利用されてこなかった。
しかし、高齢化社会を目前に、この制度をもっと使いやすく、柔軟に対応できる制度にと生まれ変わったのが、この成年後見制度というものだ。この制度には、法定後見制度と、自らの意思に基づいて任意後見人と契約する任意後見制度とがあるが、いずれも本人のボケからくる誤った判断から財産や生活を保護しようというものである。
概要は、次のとおりであるが、この成年後見制度では、後見が必要となった場合でも、これまでのように戸籍に記載されるということはないので、親戚の婚姻や就職に影響が及ぶといったことはないであろう。また、後見人になると東京法務局に登記されることになるが、登記事項証明書は本人、後見人、後見監督人等一定の者でないと請求できないなど、プライバシーには配慮されたものになっているので、ある程度安心である。
①法定後見制度とは
法定後見制度は、これまでの禁治産、準禁治産制度を衣替えした制度で、「補助」、「保佐」、「後見」から成っている。
イ 「補助」とは
「補助」とは、軽度の痴呆状態の人を保護する制度である。
家庭裁判所は「補助開始の審判」に伴い「補助人」を選任するが、この補助人には、当事者が申立てにより選択した「特定の法律行為」について、代理権又は同意権・取消権の一方又は双方が付与されることとされている。また、自己決定の尊重の観点から、本人の申立て又は同意が審判の要件とされている。なお、代理権・同意権の必要性がなくなったときは、その付与の取消しを求めることもでき、すべての代理権・同意権の付与が取り消されたときは、補助開始の審判の取り消されることとなる。
ロ 「保佐」とは
「保佐」とは、判断能力が著しく不十分な人を保護する制度である。
家庭裁判所は「保佐開始の審判」に伴い保佐人を選任するが、本人が民法第一二条第一項所定の行為(不動産の売買等)を保佐人の同意を得ずに行った場合には、その行為は本人又は保佐人が取り消すことができるとされている。また、代理権の付与については、本人の申立て又は同意がなければならないが、保佐人に代理権が与えられると、保佐人は本人に代わって法律行為ができることとなる。
ハ 「後見」とは
「後見」とは、判断能力を欠く常況に在る者を保護する制度である。
家庭裁判所は「後見開始の審判」に伴い「成年後見人」を選任するが、成年後見人には本人保護の観点から、本人の財産にかかわるすべての法律行為につき広範な代理権が与えられている。また、本人がした法律行為についても取消権が与えられている。ただし、自己決定の尊重の観点から、日用品の購入その他日常生活に関する行為は取消権の対象から除外されている。
②任意後見制度とは
任意後見制度は、平成十一年に新設された制度で、「任意後見契約に関する法律」に基づき、本人と後見人とが公正証書により本人の将来の後見につき契約をし、本人が後見が必要となったときに、家庭裁判所が後見監督人を選任し、その時点から効力が生じるもので、本人の意思を尊重した制度となっている。
(「続・生前遺産分割のすすめ」より抜粋)